士やも空しくあるべき万代に
語り継ぐべき名は立てずして
- 歌の意味
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男子たるものが、空しく終わってよいものだろうか。万代まで語り継ぐに足る名を立てもしないで。
- 鑑賞
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巻第六 雑歌 978
詞書「山上臣憶良の沈痾の時の歌一首」
男子と生まれて、万代に語り継がれるような名も立てずに、空しく一生を終えてよいものだろうか、と嘆く歌である。詞書によれば、山上憶良が重い病に伏していたときの作である。
左注によれば、憶良が病床にあったとき、藤原八束が河辺東人を遣わして病状を見舞わせた。憶良は返事を言い終えると、しばらくして涙をぬぐい悲しみ嘆いて、この歌を口ずさんだという。死を前にした老境の憶良が、名を後世に残せなかった無念を率直に吐露しており、憶良の最晩年の作とされる。名を立てることを男子の務めとする考えがはっきりと表れた歌として知られる。
作者の山上憶良は、大宝二年(702)に遣唐使の少録として唐に渡り、帰国後は伯耆守、筑前守などを歴任した。筑前守の在任中には大宰帥大伴旅人と親しく交わり、多くの歌を残した。天平五年(733)ごろに没したとみられる。
本歌の初句の「士(をのこ)」は、本巻の第九百七十二首の結句「男とぞ思ふ」と同じく男子を表す語で、第九百六十八首や第九百七十四首の「ますらを」とも響き合う。先の歌々が旅立つ男子の武勇や務めを讃え、戒めたのに対し、本歌は死を前にして名を立てられなかった男子の嘆きを詠んでおり、同じ主題を反転した構図で示している。
初句「士やも」は、男子たるものがの意である。「やも」は反語を表し、二句の「あるべき」で結ぶ。
二句「空しくあるべき」は、空しく終わってよいものだろうか、いやそうではないの意で、初句の「やも」を受けた反語である。ここで意味が切れる二句切れである。字余りの句である。
三句「万代に」は、万年も後の世までの意で、名が語り継がれる時の長さを示す。
四句「語り継ぐべき」は、語り継ぐにふさわしいの意で、次の「名」にかかる。
結句「名は立てずして」は、名を立てもしないでの意である。二句の「空しくあるべき」の理由を後から述べる倒置の形で、名を立てられなかった無念をもって一首を結んでいる。
をのこ:男子
よろづよ:万代、限りなく長い年月
たつ:名を世に広める、名をあげる
- 作者
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山上憶良
- 出典
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万葉集
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直越のこの道にしておしてるや 難波の海と名付けけらしも
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我が背子が着る衣薄し佐保風は いたくな吹きそ家に至るまで