我が背子が着る衣薄し佐保風は
いたくな吹きそ家に至るまで
- 歌の意味
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あなたが着ている衣は薄い。佐保風よ、ひどく吹かないでおくれ、家に着くまでは。
- 鑑賞
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巻第六 雑歌 979
詞書「大伴坂上郎女、姪家持の佐保より西の宅に還帰るに与ふる歌一首」
甥の家持が着ている衣は薄いので、佐保風よ、家に着くまではひどく吹かないでほしいと願う歌である。詞書によれば、大伴坂上郎女が、甥の大伴家持が佐保の家から西の宅へ帰る際に贈った歌である。詞書の「姪」は、ここでは兄弟の子である甥を指す。
薄着で帰っていく若い甥の身を案じ、風に向かって吹くなと呼びかける、叔母としての細やかな愛情があふれている。「我が背子」は本来、女性が夫や恋人など親しい男性を呼ぶ語であるが、ここでは甥の家持を親しんで呼んでいる。佐保は奈良の都の北東にあたり、大伴氏の邸があった地である。
作者の大伴坂上郎女は大伴安麻呂の娘で、旅人の異母妹にあたる。家持にとっては叔母であり、のちに娘の坂上大嬢が家持の妻となった。
本歌は、前歌の第九百七十八首が死を前にした老いの嘆きを詠んだのに続き、これから世に出る若い家持の身を気遣う歌であり、老いと若さが並ぶ配列になっている。また本歌の後には、次歌の第九百八十首から始まる月の歌の一連が続いている。
初句「我が背子が」は、親しい男性を呼ぶ「背子」に「我が」を添えた語で、ここでは甥の家持を指す。
二句「着る衣薄し」は、着ている衣が薄いの意で、「着る」を「ける」と読むのは上代の言い方である。形容詞の終止形「薄し」で意味が切れる二句切れである。
三句「佐保風は」は、佐保の地を吹く風をいう。風を人のように見立て、係助詞「は」で取り立てて呼びかけている。
四句「いたくな吹きそ」は、ひどく吹かないでおくれの意で、「な〜そ」は穏やかな禁止を表す。風に向かって頼む形に、甥を気遣う心が表れている。
結句「家に至るまで」は、家に着くまではの意である。四句の願いに期限を添え、帰り道の間だけでもという気持ちを示している。字余りの句である。
せこ:女性が夫や恋人、親しい男性を親しんで呼ぶ語
さほかぜ:佐保の地を吹く風
- 作者
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大伴坂上郎女
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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士やも空しくあるべき万代に 語り継ぐべき名は立てずして
- 次の歌
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雨隠り御笠の山を高みかも 月の出で来ぬ夜はくたちつつ