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雲隠り去方をなみと我が恋ふる
月をや君が見まく欲りする

歌の意味
雲に隠れて行方がわからないので私が恋しく思っている月を、あなたも見たいと願っているのだろうか。
鑑賞
巻第六 雑歌 984

詞書「豊前国の娘子の月の歌一首(娘子、字を大宅といふ。姓氏は未詳なり)」
 雲に隠れて行方がわからず、私が恋しく思っている月を、あなたも見たいと願っているのだろうか、と詠んだ歌である。本巻には第九百八十首から第九百八十七首まで、月を詠んだ歌が作者を替えて八首続けて並べられている。本歌はその五首目で、豊前国の娘子の作である。
 雲に隠れた月を恋い慕う自分の思いと同じ思いを、相手の「君」も抱いているのかと問いかけている。月を待つ心を二人で分かち合おうとする歌であり、一連の中では、月を見る者どうしの心の通い合いに焦点を当てている。
 作者の豊前国娘子大宅は、豊前国(現在の福岡県東部から大分県北部)の女性である。詞書の注に、字を大宅といい、姓氏は未詳とある。

 本歌の初句「雲隠り」は、本巻の第九百六十六首の「大和道は雲隠りたり」と同じ語を用いている。また一連の初めの第九百八十首の「雨隠り」とも響き合い、隠れて見えない月を恋い慕う趣向が共通している。
 初句「雲隠り」は、雲に隠れての意で、月が雲に隠れて見えないことをいう。
 二句「去方をなみと」は、行方がわからないのでの意である。「なみ」は形容詞「なし」に「み」が付いて理由を表す。月がどこへ行ったかわからないもどかしさを示す。
 三句「我が恋ふる」は、私が恋しく思うの意で、次の「月」にかかる。月を恋しい人のように慕う気持ちが表れている。
 四句「月をや君が」は、月をあなたがの意である。「や」は疑問の係助詞で、結句の「欲りする」で結ぶ。
 結句「見まく欲りする」は、見たいと願うの意である。「見まく」は見ることの意で、四句の係助詞「や」を受けて連体形「欲りする」で結ぶ係り結びである。

くもがくる:雲に隠れる
ゆくへ:行方、行く先
みまく:見ること
ほる:欲る。望む、願う
作者
豊前国娘子大宅
出典
万葉集
前の歌
山の端のささら愛壮士天の原 門渡る光見らくしよしも
次の歌
天にます月読壮士賄はせむ 今夜の長さ五百夜継ぎこそ