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焼太刀のかど打ち放ち大夫の
寿く豊御酒に我れ酔ひにけり

歌の意味
焼き鍛えた太刀の角を打ち鳴らして、ますらおたちが祝う豊御酒に、私は酔ってしまった。
鑑賞
巻第六 雑歌 989

詞書「湯原王の打酒の歌一首」
 焼き鍛えた太刀の角を打ち鳴らし、ますらおたちが祝福する豊御酒に、すっかり酔ってしまったと詠んだ歌である。詞書の「打酒」の意は明らかでないが、酒宴の席で詠まれた歌である。
 「かど打ち放ち」は、太刀を打ち鳴らす所作とみられ、祝いの場の儀礼的なふるまいと考えられている。勇ましいますらおたちが太刀を打ち鳴らして寿ぐ酒に酔うという、力強く晴れやかな宴の情景が描かれている。
 作者の湯原王は天智天皇の皇子志貴皇子の子で、奈良時代前期の歌人である。

 本歌の四句の「豊御酒」は、本巻の第九百七十三首の長歌で天皇が節度使に酒を賜った「この豊御酒は」と同じ語であり、ますらおと酒を結びつける点でも響き合っている。また前歌の第九百八十八首とは、ともに宴の席の歌として並び、祝いの宴を二つの面から描いている。
 初句「焼太刀の」は、火で焼き鍛えた太刀の意である。刃の鋭さを思わせ、勇ましい場の雰囲気を示している。
 二句「かど打ち放ち」は、太刀の角を打ち鳴らしての意とみられる。祝いの場で太刀を打ち鳴らす所作を表していると考えられている。
 三句「大夫の」は、立派な男子、勇ましい男子の意で、宴に集った男たちを指す。本巻の第九百六十八首や第九百七十四首の「ますらを」とも響き合う。
 四句「寿く豊御酒に」は、祝福する立派な酒にの意である。「寿く」は祝いの言葉を述べて祝福すること、「豊御酒」は酒の美称である。
 結句「我れ酔ひにけり」は、私は酔ってしまったことだの意で、「に」は完了、「けり」は詠嘆を表す。宴の楽しさに酔いしれた心をもって一首を結んでいる。

やきたち:火で焼き鍛えた太刀
ほく:祝う、祝福の言葉を述べる
とよみき:豊御酒。酒の美称
ゑふ:酔う
作者
湯原王
出典
万葉集
前の歌
春草は後はうつろふ巌なす 常盤にいませ貴き我が君
次の歌
茂岡に神さび立ちて栄えたる 千代松の木の年の知らなく