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振り放けて三日月見れば一目見し
人の眉引き思ほゆるかも

歌の意味
振り仰いで三日月を見ると、一目見たあの人の眉のかたちが思い出されることだ。
鑑賞
巻第六 雑歌 994

詞書「大伴宿祢家持の初月の歌一首」
 空を振り仰いで細い三日月を見ると、ただ一目見ただけの人の、引いたような美しい眉が思い出されると詠んだ歌である。三日月の形を女性の眉に見立て、一度見ただけの人への淡い恋心を、空の月に託して述べている。
 前歌の第九百九十三首とともに「初月」を題とする歌で、叔母の坂上郎女の歌と並べて置かれている。天平五年(733)ごろ、十代半ばの家持の作とされ、家持の若い日の歌として知られる。
 作者の大伴家持は大伴旅人の子で、奈良時代の官人、歌人である。のちに越中守、少納言、兵部少輔などを歴任し、中納言に至った。万葉集の編纂に深く関わったとされる。

 前歌の第九百九十三首が、三日月のような自分の眉を掻いて恋人に逢えたよろこびを詠んだのに対し、本歌は三日月から一目見た人の眉を思い出す。同じ三日月と眉の見立てを用いながら、逢えた側と思い慕う側とが反転している。また、少し後の第九百九十八首でも阿波の山が「眉のごと」と詠まれ、眉の見立てが続いている。
 初句「振り放けて」は、遠くを振り仰いでの意である。「振り放け見る」は遠くを仰ぎ見る動作を表し、空の三日月へと視線を向けている。
 二句「三日月見れば」は、三日月を見るとの意で、「見れば」は確定条件を表す。見ることをきっかけとして、下の句の思い出へとつながる。
 三句「一目見し」は、ただ一度見たの意である。「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、ほんの一度の出会いであったことを示している。
 四句「人の眉引き」は、その人の眉のかたちの意である。「眉引き」は眉墨で引いたような細く美しい眉をいい、三日月の細い弧と重ね合わされている。
 結句「思ほゆるかも」は、自然に思い出されることだの意である。「思ほゆ」は自然とそう思われることをいい、「かも」は詠嘆を表す。意図せずよみがえる面影を詠んで一首を結ぶ。

ふりさく:遠くを振り仰ぐ
まよびき:眉墨で引いたような眉、眉のかたち
おもほゆ:自然に思われる、思い出される
作者
大伴家持
出典
万葉集
前の歌
月立ちてただ三日月の眉根掻き 日長く恋ひし君に逢へるかも
次の歌
かくしつつ遊び飲みこそ草木すら 春は咲きつつ秋は散りゆく