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奥山の真木の葉しのぎ降る雪の
降りは増すとも地に落ちめやも

歌の意味
奥山の真木の葉を押し伏せて降る雪が、降り積もることは増しても、地に落ちることがあろうか、いや決して落ちはしない。
鑑賞
巻第六 雑歌 1010

詞書「橘宿祢奈良麻呂、詔に応ふる歌一首」
 奥山の真木の葉を押し伏せるように雪が降り積もっても、その雪が地に落ちることはないと詠んだ歌である。前歌の第千九首に続いて置かれ、橘の姓を賜った折の宴で、天皇の詔に応えて奈良麻呂が詠んだものとみられる。
 雪が真木の葉の上に降り積もり、どれほど重くなっても地に落ちないと言うことで、賜った橘の姓の名誉が決して地に落ちることはないという決意と祝意とを表している。天皇の御製に応える、橘氏の若い世代としての誓いの歌とみることができる。
 作者の橘奈良麻呂は葛城王(橘諸兄)の子である。のちに天平勝宝九歳(757)、藤原仲麻呂の打倒を企てたが事前に発覚し、捕らえられた(橘奈良麻呂の乱)。

 前歌の第千九首が「枝に霜降れど」と霜にも衰えない橘を讃えたのに対し、本歌は「降る雪の降りは増すとも」と雪を詠み、霜と雪とで対をなしている。前歌の常緑の木の讃美を、本歌は地に落ちない雪の比喩で受けとめている。
 初句「奥山の」は、人里から遠く離れた深い山のの意である。雪の降る場所を示している。
 二句「真木の葉しのぎ」は、真木の葉を押し伏せての意である。「真木」は杉や檜などのすぐれた木、「しのぐ」は押さえつけるように覆うことをいう。
 三句「降る雪の」は、降る雪がの意である。初句から三句までが序詞となり、同じ「降る」の語を重ねて四句の「降りは増す」を導いている。
 四句「降りは増すとも」は、降り積もることはいっそう増しても、の意である。「とも」は逆接の仮定を表し、どれほど重く積もっても、という強い言い方になっている。
 結句「地に落ちめやも」は、地に落ちることがあろうか、いや決して落ちはしないの意である。「めやも」は反語を表し、橘氏の名誉が地に落ちることはないという決意を強く示して一首を結ぶ。

おくやま:人里から遠く離れた奥深い山
まき:杉や檜などのすぐれた木
しのぐ:押さえつけるように覆う、押し伏せる
作者
橘奈良麻呂
出典
万葉集
前の歌
橘は実さへ花さへその葉さへ 枝に霜降れどいや常葉の木
次の歌
我が宿の梅咲きたりと告げ遣らば 来と言ふに似たり散りぬともよし