常はさね思はぬものをこの月の
過ぎ隠らまく惜しき宵かも
- 歌の意味
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普段はまったくそうは思わないのに、この月が空を過ぎて隠れてしまうのが惜しい今宵であることよ。
- 鑑賞
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巻第七 雑歌 1069
詞書「月を詠む」
月が沈んで見えなくなるのを惜しむ心を詠んだ一首である。普段は月の入りを気にもとめないのに、今宵に限っては惜しいと述べ、特別な夜の感慨を素直に表している。
詞書「月を詠む」のもとに並ぶ十八首の最初の歌である。前歌で月の舟が「漕ぎ隠る」と詠まれたのを受けるように、月の「過ぎ隠らまく」を惜しむ歌が続く配列となっている。作者は未詳である。
初句「常はさね」の「さね」は、下に打消しを伴って「まったく、決して」の意を表す副詞である。「常は」と示すことで、平素と今宵とを対比させる。
二句「思はぬものを」の「ものを」は逆接の接続助詞で、平素は思わないのに、と今宵の思いへつなぐ。
三句「この月の」は、いま眺めている月を指す。前歌の天空を渡る「月の舟」から、眼前の一つの月へと焦点が移る。
四句「過ぎ隠らまく」の「まく」は推量の助動詞「む」のク語法で、過ぎて隠れてしまうであろうこと、の意。前歌の結句「漕ぎ隠る見ゆ」と「隠る」の語を共有し、月の隠れる姿を受け継ぐ。
結句「惜しき宵かも」は、名詞「宵」に詠嘆の終助詞「かも」を添えて結ぶ。平素は感じない惜しさを今宵に覚える詠嘆である。
すぎかくる:空を渡り過ぎて隠れる
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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天の海に雲の波立ち月の舟 星の林に漕ぎ隠る見ゆ
- 次の歌
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大夫の弓末振り起し狩高の 野辺さへ清く照る月夜かも