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あしひきの山川の瀬の鳴るなへに
弓月が岳に雲立ちわたる

歌の意味
山の川の瀬が音高く鳴るにつれて、弓月が岳に雲が一面に立ちわたってゆく。
鑑賞
巻第七 雑歌 1088

詞書は前の歌に続き「雲を詠む」
 山川の瀬音が高まるのと同時に、弓月が岳一面に雲が湧き広がってゆく様を詠む一首である。聴覚と視覚をともに働かせ、嵐の前触れのような山の大自然の動きを力強くとらえた、人麻呂歌集を代表する叙景歌である。
 前歌と同じく弓月が岳の雲を詠んでいる。前歌が川波から山の雲を推し量ったのに対し、この歌では雲の立ちわたる様を目の当たりにして詠んでおり、二首で推量から実見へと展開する。
 左注に「右二首柿本朝臣人麻呂の歌集に出づ」とあり、前歌とともに柿本人麻呂歌集所出の歌である。

 初句「あしひきの」は、「山」にかかる枕詞である。
 二句「山川の瀬の」は、山中を流れる川の浅瀬の、の意。前歌の「穴師川」を受け、同じ巻向の川を思わせる。
 三句「鳴るなへに」の「なへに」は、〜するにつれて、〜すると同時に、の意の接続語である。瀬音の高まりと雲の広がりとを、同時に進む一つの現象として結びつける。
 四句「弓月が岳に」は、前歌の四句と同じ句で、二首が同じ山を舞台としていることを示す。
 結句「雲立ちわたる」は、雲が一面に立ち広がる、の意。前歌の結句「雲居立てるらし」が推量であったのに対し、ここでは眼前の事実として言い切っている。

やまがは:山の中を流れる川
出典
万葉集
前の歌
穴師川川波立ちぬ巻向の 弓月が岳に雲居立てるらし
次の歌
大海に島もあらなくに海原の たゆたふ波に立てる白雲