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通るべく雨はな降りそ我妹子が
形見の衣我れ下に着り

歌の意味
衣を通って肌まで届くほどには、雨よ降らないでくれ。愛しい妻の形見の衣を、私は下に着ているのだから。
鑑賞
巻第七 雑歌 1091

詞書は前の歌に続き「雨を詠む」
 妻の形見の衣を下に着ている男が、それが濡れないように、肌まで通るほどには降るなと雨に願う一首である。形見の衣を肌身につける行為に、離れている妻を身近に感じていたいという思いがこもる。
 前歌と同じく「雨を詠む」の歌で、妻を思って自らも雨に濡れようとした前歌に対し、この歌は妻の形見を守るために雨を拒んでおり、雨をめぐる対照的な心情が並べられている。形見は、旅に出る夫に妻が託した衣と解される。作者は未詳である。

 初句「通るべく」は、衣を通して肌まで届くほどに、の意である。
 二句「雨はな降りそ」は、「な〜そ」による禁止で、雨よ降ってくれるな、の意。二句切れとなる。
 三句「我妹子が」は、前歌の初句と同じ語で、二首が妻を思う歌として連なっていることを示す。
 四句「形見の衣」は、妻をしのぶよすがとなる衣をいう。
 結句「我れ下に着り」は、私は下に着ている、の意。倒置の形で、雨を拒む理由を後から明かしている。

かたみ:離れた人や亡き人をしのぶよすがとなる品
出典
万葉集
前の歌
我妹子が赤裳の裾のひづちなむ 今日の小雨に我れさへ濡れな
次の歌
鳴る神の音のみ聞きし巻向の 桧原の山を今日見つるかも