古典和歌stream

黒牛の海紅にほふももしきの
大宮人しあさりすらしも

歌の意味
黒牛の海が紅に照り映えている。宮廷に仕える人々が浜辺で貝などを探しているらしい。
鑑賞
巻第七 雑歌 1218

詞書は前の歌に続き「羈旅にて作る」
 黒牛の海が紅に照り映えているのは、赤い裳を着た宮廷の女官たちが浜で貝や藻を探しているからだろうと推し量る一首である。海辺に映える紅の色に、行幸に従った宮人たちの華やかな姿が浮かび上がる。
 左注により藤原卿の作とされる七首の一首で、本巻の第千百九十四首、第千百九十五首とともに紀伊の旅の歌である。黒牛の海は紀伊の海南市黒江のあたりの海とされる。
 作者の藤原卿は、藤原氏の公卿を指す敬称である。藤原房前とも藤原麻呂ともいわれ、誰を指すかについて定説を見ない。天皇の紀伊行幸に従った折の作と見られる。

 初句「黒牛の海」は紀伊の海の名で、字余りの句である。
 二句「紅にほふ」の「にほふ」は、色が照り映える意。二句切れとなる。
 三句「ももしきの」は、「大宮」にかかる枕詞で、本巻の第千七十六首の初句と同じである。
 四句「大宮人し」の「し」は強意で、宮廷に仕える人々が、の意。第千七十六首の二句と同じ語である。
 結句「あさりすらしも」は、浜で貝などを探しているらしい、の意。「らし」は推定で、二句の紅の色を根拠とする。

おほみやびと:宮廷に仕える人
あさる:浜辺で貝や藻などを探し求める
作者
藤原卿
出典
万葉集
前の歌
玉津島見てしよけくも我れはなし 都に行きて恋ひまく思へば
次の歌
若の浦に白波立ちて沖つ風 寒き夕は大和し思ほゆ