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我が舟の楫はな引きそ大和より
恋ひ来し心いまだ飽かなくに

歌の意味
私の舟の櫓をまだ漕がないでくれ。大和からずっと見たいと恋い慕って来た心は、まだ満ち足りていないのだから。
鑑賞
巻第七 雑歌 1221

詞書は前の歌に続き「羈旅にて作る」
 大和から恋い焦がれて来たこの地の景を、まだ十分に見飽きていないので、舟を漕ぎ出さないでほしいと願う一首である。旅先の美しい景を離れがたい心が、率直に表されている。
 藤原卿の作とされる七首の一首で、紀伊の海の美しさへの深い愛着を詠んでいる。
 作者の藤原卿は、藤原氏の公卿を指す敬称である。藤原房前とも藤原麻呂ともいわれ、誰を指すかについて定説を見ない。

 初句「我が舟の」は、私の乗る舟の、の意である。
 二句「楫はな引きそ」は、「な〜そ」の禁止で、櫓を漕がないでくれ、の意。二句切れとなる。
 三句「大和より」は、大和から、の意である。
 四句「恋ひ来し心」は、恋い慕って来た心、の意である。
 結句「いまだ飽かなくに」は、まだ満ち足りていないのに、の意。倒置によって理由を示す字余りの句である。

かぢ:舟を漕ぐ道具、櫓や櫂
あく:満ち足りる、十分に満足する
作者
藤原卿
出典
万葉集
前の歌
妹がため玉を拾ふと紀伊の国の 由良の岬にこの日暮らしつ
次の歌
玉津島見れども飽かずいかにして 包み持ち行かむ見ぬ人のため