橡の解き洗ひ衣のあやしくも
ことに着欲しきこの夕かも
- 歌の意味
-
橡染めの、ほどいて洗い直した衣が、不思議にもとりわけ着たく思われるこの夕べであることよ。
- 鑑賞
-
巻第七 譬喩歌 1314
詞書は前の歌に続き「衣に寄す」
橡染めの、ほどいて洗い直した着古しの衣が、不思議なことに今夕はとりわけ着たく思われると詠む一首である。着古した橡の衣に長年連れ添った妻を譬え、ふと古い妻がいとおしく思われる夕べの心を表したものと見られる。
衣に寄せる一連の四首目である。初句「橡の」と「着欲し」は本巻の第千三百十一首と共通し、第千三百十一首が新しい相手に心ひかれる歌であるのに対し、この歌はなじんだ相手を思う歌として対照をなしている。作者は未詳である。
初句「橡の」は、橡染めの、の意。本巻の第千三百十一首と同じ初句である。
二句「解き洗ひ衣の」は、縫い目をほどいて洗い直した衣が、の意で、字余りの句である。
三句「あやしくも」は、不思議にも、の意である。
四句「ことに着欲しき」は、とりわけ着たく思われる、の意。第千三百十一首の結句「着欲しく思ほゆ」と対応する。
結句「この夕かも」は、この夕べであることよ、の意。「かも」は詠嘆である。
つるはみ:クヌギの実。その煮汁で染めた衣は身分の低い者が着た
ときあらひぎぬ:縫い目をほどいて洗い直した衣
ゆふへ:夕方
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
紅の深染めの衣下に着て 上に取り着ば言なさむかも
- 次の歌
-
橘の島にし居れば川遠み さらさず縫ひし我が下衣