荒磯越す波は畏ししかすがに
海の玉藻の憎くはあらずて
- 歌の意味
-
荒磯を越えて打ち寄せる波は恐ろしい。そうはいうものの、海の玉藻が憎いわけではなくて。
- 鑑賞
-
巻第七 譬喩歌 1397
詞書は前の歌に続き「藻に寄す」
荒磯を越す波は恐ろしいが、それでも海の玉藻が憎いわけではないと詠む一首である。玉藻を思う女性に、荒波を女性の周りの人目や親の監視などに譬え、障りを恐れながらも女性への思いを捨てきれない心を表したものと見られる。
藻に寄せる歌の四首目で、寄藻の歌の最後にあたる。結句を「あらずて」と言いさして終える点に、言い尽くせない思いの余韻がある。作者は未詳である。
初句「荒磯越す」は、荒々しい磯を越えて打ち寄せる、の意である。
二句「波は畏し」は、波は恐ろしい、の意で、二句切れとなる。波は恋の障りを譬えている。
三句「しかすがに」は、そうはいうものの、の意で、上二句を受けて逆接で転じる。
四句「海の玉藻の」は、海の美しい藻、の意で、思う女性を譬えている。
結句「憎くはあらずて」は、憎いわけではなくて、の意。「て」で言いさして余情を残している。
ありそ:岩の多い荒々しい磯
たまも:藻の美称
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
紫の名高の浦のなのりその 磯に靡かむ時待つ我れを
- 次の歌
-
楽浪の志賀津の浦の舟乗りに 乗りにし心常忘らえず