こと放けば沖ゆ放けなむ港より
辺著かふ時に放くべきものか
- 歌の意味
-
どうせ離すのなら、沖にいるうちに離してほしい。港から岸に着こうとするその時になって、離してよいものか。
- 鑑賞
-
巻第七 譬喩歌 1402
詞書は前の歌に続き「船に寄す」
同じ離すのなら沖にいるうちに離してほしい、港から岸に着こうとする時になって離してよいものか、と訴える一首である。岸に着く間際の舟を、結ばれる間際になった恋に譬え、その時になって二人の仲を裂くことへの恨みを表したものと見られる。
船に寄せる歌の五首目で、譬喩歌の部の短歌としてはこれが最後の歌である。譬喩歌の部はこの後の旋頭歌一首で終わる。作者は未詳である。
初句「こと放けば」は、同じ離すのならば、の意である。
二句「沖ゆ放けなむ」は、沖にいるうちに離してほしい、の意。「なむ」は他に対する願望で、二句切れとなる。
三句「港より」は、港から、の意である。
四句「辺著かふ時に」は、岸に着こうとする時に、の意で、恋が成就する間際を譬えている。
結句「放くべきものか」は、離してよいものか、の意で、反語となっている。
さく:離す、遠ざける
へつかふ:岸に近づく
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
水霧らふ沖つ小島に風をいたみ 舟寄せかねつ心は思へど
- 次の歌
-
鏡なす我が見し君を阿婆の野の 花橘の玉に拾ひつ