百済野の萩の古枝に春待つと
居りし鴬鳴きにけむかも
- 歌の意味
-
百済野の萩の古枝に、春を待つといってとまっていた鴬は、もう鳴いたことだろうか。
- 鑑賞
-
巻第八 春雑歌 1431
詞書「山部宿禰赤人の歌一首」
冬の間、百済野の萩の古い枝にとまって春を待っていた鴬が、もう鳴き始めただろうかと思いやる歌である。目の前の景ではなく、離れた野の鴬に心を寄せる想像の歌で、春を待つ鳥の姿に作者自身の春を待つ心が重なっている。
作者の山部赤人は、奈良時代前期の宮廷歌人である。清らかな叙景歌にすぐれ、後世、柿本人麻呂と並び称された。
初句「百済野の」は、奈良県広陵町のあたりとされる野である。
二句「萩の古枝に」は、去年から残る萩の枯れ枝である。秋の花である萩の古枝を春の鴬と取り合わせ、季節の移り変わりを印象づけている。
三句「春待つと」は、春を待つといっての意で、鴬を人のように描く。
四句「居りし鴬」は、過去の「し」で、以前見たときにとまっていた鴬を思い起こしている。鴬は本巻の第千四百四十一首、第千四百四十三首にも詠まれ、春の訪れを告げる鳥として春雑歌に連なっている。
結句「鳴きにけむかも」は、過去推量の「けむ」に「かも」を添え、今ごろはもう鳴いたことだろうかと遠く思いやる心を表している。
ふるえ:古い枝、去年から残っている枝
- 作者
-
山部赤人
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
去年の春逢へりし君に恋ひにてし 桜の花は迎へけらしも
- 次の歌
-
我が背子が見らむ佐保道の青柳を 手折りてだにも見むよしもがも