時は今は春になりぬとみ雪降る
遠山の辺に霞たなびく
- 歌の意味
-
時節は今はもう春になったというので、雪の降る遠い山のあたりに霞がたなびいている。
- 鑑賞
-
巻第八 春雑歌 1439
詞書「中臣朝臣武良自の歌一首」
まだ雪の降る遠くの山のあたりに霞がたなびくのを見て、季節が春に移ったことを感じ取った歌である。冬の雪と春の霞が同じ山に重なる、季節の境目の景がとらえられている。
作者の中臣武良自は、中臣氏の一族とみられるが、詳しい経歴は伝わらない。
初句「時は今は」は、「は」を重ねて、今という時を強く示す。字余りの句である。
二句「春になりぬと」は、完了の「ぬ」で、春になったというのでの意である。霞が春の到来を告げるかのように描かれる。
三句「み雪降る」の「み」は美称の接頭語で、雪がなお降っていることを示す。
四句「遠山の辺に」は、遠くに見える山のあたりである。本巻の第千四百二十二首の「遠き木末」と同じく、遠景の山に春の兆しを見いだしている。
結句「霞たなびく」は、春の象徴である霞を最後に置き、冬から春への移ろいを印象づけている。
みゆき:雪の美称
とほやま:遠くに見える山
- 作者
-
中臣武良自
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
霞立つ春日の里の梅の花 花に問はむと我が思はなくに
- 次の歌
-
春雨のしくしく降るに高円の 山の桜はいかにかあるらむ