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心ぐきものにぞありける春霞
たなびく時に恋の繁きは

歌の意味
心が晴れず重苦しいものであったよ。春霞がたなびく時に、恋しさがしきりにつのるのは。
鑑賞
巻第八 春相聞 1450

詞書「大伴宿禰坂上郎女の歌一首」
 春霞がたなびくのどかな季節に、恋しさがしきりにつのるのは、なんとも心の晴れないものだと詠む歌である。ぼんやりとかすむ春の景色と、晴れない胸のうちとが重ね合わされている。
 作者の大伴坂上郎女は、大伴安麻呂の娘で、大伴旅人の異母妹にあたる。大伴家持の叔母であり、のちに姑ともなった。万葉集に多くの歌を残す女性歌人である。

 初句「心ぐき」は、心が晴れず重苦しいさまを表す。
 二句「ものにぞありける」は、係助詞「ぞ」と詠嘆の「けり」の連体形「ける」による係り結びで、今さらながらに気づいた感慨を表す。ここで句切れとなる。
 三句「春霞」は、ぼんやりとかすむ春の霞で、晴れない心と響き合う。
 四句「たなびく時に」は、霞が横に長くかかる時にの意である。
 結句「恋の繁きは」は、恋しさが絶え間なくつのることはの意で、倒置によって心ぐき理由を最後に示している。

たなびく:霞や雲が横に長く引いてかかる
作者
大伴坂上郎女
出典
万葉集
前の歌
茅花抜く浅茅が原のつほすみれ 今盛りなり我が恋ふらくは
次の歌
水鳥の鴨の羽色の春山の おほつかなくも思ほゆるかも