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戯奴がため我が手もすまに春の野に
抜ける茅花ぞ食して肥えませ

歌の意味
おまえのために、私が手を休める間もなく春の野で抜いた茅花ですよ。これを召し上がってお太りなさい。
鑑賞
巻第八 春相聞 1460

詞書「紀女郎の大伴宿禰家持に贈る歌二首」
 春の野で休む間もなく抜いた茅花を家持に贈り、これを食べて太りなさいと戯れかけた歌である。年上の女性が年下の家持を「戯奴」と呼んでからかう、親しみのこもった遊び心の歌となっている。左注に「右は、合歓の花并せて茅花を折り攀ぢて贈る」とあり、次歌とともに花を添えて贈られたことがわかる。
 作者の紀女郎は、名を小鹿という女性で、紀鹿人の娘である。安貴王の妻となったと伝えられる。
 なお原文には初句の「戯奴」に「わけ」と読む旨の注記があり、歌の本文ではないため除いた。ここでは注記に従い「わけ」と読む。

 初句「戯奴がため」の「戯奴」は、目下の者を親しんで呼ぶ語で、ここでは年下の家持をからかって呼んでいる。
 二句「我が手もすまに」は、手を休める間もなくの意で、苦労して摘んだことを恩着せがましく強調している。
 三句「春の野に」は、茅花を抜いた場所を示す。
 四句「抜ける茅花ぞ」は、係助詞「ぞ」で、ほかならぬこの茅花だと強める。茅花は甘みがあり、食べられた。
 結句「食して肥えませ」は、尊敬の「食す」「ます」をわざと用い、召し上がって太りなさいと戯れている。家持は次の第千四百六十二首で、茅花を食べてもかえって痩せると答えている。

わけ:目下の者を親しんで呼ぶ語、ここでは年下の家持を戯れて呼ぶ
つばな:ちがやの花穂、甘みがあり食用とされた
作者
紀女郎
出典
万葉集
前の歌
世間も常にしあらねばやどにある 桜の花の散れるころかも
次の歌
昼は咲き夜は恋ひ寝る合歓木の花 君のみ見めや戯奴さへに見よ