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春霞たなびく山のへなれれば
妹に逢はずて月ぞ経にける

歌の意味
春霞のたなびく山が間を隔てているので、あなたに逢わないまま、ひと月が過ぎてしまった。
鑑賞
巻第八 春相聞 1464

詞書「大伴家持の坂上大嬢に贈る歌一首」
 春霞のたなびく山に隔てられて、恋しい人に逢えないまま月日が過ぎたと嘆く歌である。左注に「右は、久迩京より寧楽の宅に贈る」とあり、新しい都の久迩京に勤めていた家持が、奈良の家にいる坂上大嬢に贈ったものである。春相聞の最後に置かれている。
 作者の大伴家持は、大伴旅人の子で、奈良時代の官人である。中納言に至り、万葉集の編纂に深く関わったとされ、集中最も多くの歌を残す。歌を贈った坂上大嬢は、大伴坂上郎女の娘で家持のいとこにあたり、のちに家持の妻となった。

 初句「春霞」は、二人を隔てる山にかかる春の霞である。
 二句「たなびく山の」は、霞が横に長くかかる山で、本巻の第千四百五十首の「春霞たなびく時に」と同じ景を、恋人を隔てるものとしてとらえている。
 三句「へなれれば」は、隔たっているのでの意で、存続の「り」の已然形に「ば」が付いた確定条件である。
 四句「妹に逢はずて」は、あなたに逢わないままでの意である。
 結句「月ぞ経にける」は、係助詞「ぞ」と詠嘆の「けり」の連体形「ける」による係り結びで、ひと月が過ぎてしまったことを嘆いている。

へなる:隔たる、間を隔てる
くにのみやこ:聖武天皇が山城国に営んだ久迩京
作者
大伴家持
出典
万葉集
前の歌
我妹子が形見の合歓木は花のみに 咲きてけだしく実にならじかも
次の歌
霍公鳥いたくな鳴きそ汝が声を 五月の玉にあへ貫くまでに