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今朝の朝明雁が音聞きつ春日山
もみちにけらし我が心痛し

歌の意味
今朝の明け方に雁の声を聞いた。春日山はもう色づいたらしい。私の心は痛む。
鑑賞
巻第八 秋雑歌 1513

詞書「穂積皇子の御歌二首」
 今朝の明け方に雁の声を聞き、春日山もきっと色づいたことだろうと思い、深まる秋に心を痛める歌である。雁の声という耳からの兆しから、見えない山の黄葉を思い描き、秋のもの悲しさを表している。
 作者の穂積皇子は天武天皇の皇子で、知太政官事を務めた。

 初句「今朝の朝明」は字余りで、今朝の明け方の意である。本巻の第千五百四十首の聖武天皇の御製も同じ初句で雁の声を詠み、野の浅茅が色づいたと続けており、雁の声から秋の色づきを知る歌が秋雑歌の中で呼応している。
 二句「雁が音聞きつ」は、完了の「つ」で、雁の声を確かに聞いたと言い切り、ここで句切れとなる。
 三句「春日山」は、奈良の春日山である。
 四句「もみちにけらし」は、過去推定の「けらし」で、色づいたらしいと推し量り、ここで句切れとなる。
 結句「我が心痛し」は字余りで、心が痛むと率直に言い切り、秋の深まりに寄せる悲しみを表している。

あさけ:夜明け、明け方
かりがね:雁の鳴く声、また雁
もみつ:木の葉が色づく
作者
穂積皇子
出典
万葉集
前の歌
経もなく緯も定めず娘子らが 織る黄葉に霜な降りそね
次の歌
秋萩は咲くべくあらし我がやどの 浅茅が花の散りゆく見れば