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秋萩の散りの乱ひに呼びたてて
鳴くなる鹿の声の遥けさ

歌の意味
秋萩が散り乱れる中で、妻を呼び立てて鳴いている鹿の声の、なんとはるかなことか。
鑑賞
巻第八 秋雑歌 1550

詞書「湯原王の鳴く鹿の歌一首」
 秋萩が散り乱れる中で、妻を呼び立てて鳴く鹿の声が、はるか遠くから響いてくると詠む歌である。散り乱れる萩の花の色と、遠く響く鹿の声とが重なり合い、深まる秋の寂しさと広がりを感じさせる。
 作者の湯原王は、志貴皇子の子で、奈良時代の皇族である。清らかな歌風で知られる。

 初句「秋萩の」は、秋の野に咲く萩を示す。
 二句「散りの乱ひに」の「まがひ」は、入り乱れることで、萩の花が散り乱れる中にの意である。
 三句「呼びたてて」は、声を張り上げて呼ぶの意で、妻を呼ぶ鹿のさまを示す。
 四句「鳴くなる鹿の」の「なる」は、音によって推定する助動詞で、鳴いているのが聞こえるの意である。
 結句「声の遥けさ」は体言止めで、声の遠さへの感動を表す。本巻の第千四百九十四首の大伴家持の歌も同じ結句で、夏山のほととぎすの声を詠んでおり、夏の鳥と秋の鹿とが遠く響く声として対応している。

まがひ:入り乱れること
作者
湯原王
出典
万葉集
前の歌
咲く花もをそろはいとはしおくてなる 長き心になほしかずけり
次の歌
時待ちて降れるしぐれの雨やみぬ 明けむ朝か山のもみたむ