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誰れ聞きつこゆ鳴き渡る雁がねの
妻呼ぶ声の羨しくもあるか

歌の意味
誰か聞いただろうか。ここを鳴きながら渡っていく雁の、妻を呼ぶ声が、なんとうらやましいことか。
鑑賞
巻第八 秋雑歌 1562

詞書「巫部麻蘇娘子の雁の歌一首」
 ここを鳴きながら渡っていく雁が、妻を呼ぶ声を誰か聞いただろうかと問いかけ、その声がうらやましいと詠む歌である。相手を呼ぶことのできる雁をうらやむ心に、恋しい人に逢えない寂しさがにじんでいる。次歌はこの歌に大伴家持が和したものである。
 作者の巫部麻蘇娘子は、大伴家持と歌を交わした女性で、伝は未詳である。

 初句「誰れ聞きつ」は、誰が聞いたかと問いかけ、ここで句切れとなる。
 二句「こゆ鳴き渡る」は、ここを通って鳴きながら渡っていくの意である。
 三句「雁がねの」は、雁の鳴き声、または雁を指す。
 四句「妻呼ぶ声の」は、妻を呼んで鳴く声のの意である。前歌の第千五百六十一首の鹿の「妻呼ぶ声」と同じ言葉で、山の鹿と空の雁とが対になっている。
 結句「羨しくもあるか」は、詠嘆の「か」で、なんとうらやましいことかと結ぶ。前歌の結句「聞くが羨しさ」とも響き合っている。

かりがね:雁の鳴く声、また雁
作者
巫部麻蘇娘子
出典
万葉集
前の歌
吉隠の猪養の山に伏す鹿の 妻呼ぶ声を聞くが羨しさ
次の歌
聞きつやと妹が問はせる雁が音は まことも遠く雲隠るなり