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ここにありて春日やいづち雨障み
出でて行かねば恋ひつつぞ居る

歌の意味
ここにいて、春日はどちらの方角だろうか。雨にさえぎられて出かけて行けないので、恋しく思い続けている。
鑑賞
巻第八 秋雑歌 1570

詞書「藤原朝臣八束の歌二首」
 ここからは春日の方角さえもわからず、雨にさえぎられて出かけられないので、春日を恋しく思い続けていると詠む歌である。春日の地やそこにいる人を思いながら、雨のために動けないもどかしさが表されている。
 作者の藤原八束は、藤原房前の子で、のちに真楯と改名した。大納言に至った。

 初句「ここにありて」は字余りで、ここにいての意である。
 二句「春日やいづち」は、疑問の「や」で、春日はどちらの方角かと問い、ここで句切れとなる。
 三句「雨障み」は、雨に降りこめられて外出を控えることである。
 四句「出でて行かねば」は、出かけて行かないのでの意である。本巻の第千五百六十八首の大伴家持の歌が、雨にこもったのち外へ出て春日山を見たのに対し、この歌は雨のために出かけられないまま春日を恋うており、同じ雨と春日をめぐって対照をなしている。
 結句「恋ひつつぞ居る」は、係助詞「ぞ」を受けて連体形「居る」で結ぶ係り結びで、恋しく思い続けていることを強調している。

あまつつみ:雨に降りこめられて外出を控えること
作者
藤原八束
出典
万葉集
前の歌
雨晴れて清く照りたるこの月夜 またさらにして雲なたなびき
次の歌
春日野に時雨降る見ゆ明日よりは 黄葉かざさむ高円の山