今朝鳴きて行きし雁が音寒みかも
この野の浅茅色づきにける
- 歌の意味
-
今朝鳴いて渡って行った雁の声が寒かったからだろうか、この野の浅茅が色づいたことだ。
- 鑑賞
-
巻第八 秋雑歌 1578
詞書は前の歌に続き「右大臣橘家の宴の歌七首」
今朝鳴いて渡って行った雁の声が寒かったからだろうか、この野の浅茅が色づいたと詠む歌である。雁の声の寒さが浅茅を色づかせたと見立て、宴の庭の秋の深まりをたたえている。左注に「右二首は、阿倍朝臣虫麻呂」とある。
作者の阿倍虫麻呂は奈良時代の官人で、大伴坂上郎女の従兄弟にあたる。
初句「今朝鳴きて」は、今朝鳴いての意である。
二句「行きし雁が音」は、渡って行った雁の声である。
三句「寒みかも」は、「〜み」に疑問の「か」を添え、寒かったからだろうかと推し量る。
四句「この野の浅茅」は字余りで、宴の場の野の浅茅を示す。
結句「色づきにける」は、三句の「か」を受けて詠嘆の「けり」の連体形「ける」で結ぶ係り結びである。本巻の第千五百四十首の聖武天皇の御製も「雁が音寒く聞きしなへ野辺の浅茅ぞ色づきにける」と、ほぼ同じ趣向と結句で詠まれており、天皇の御製を踏まえたものとも考えられる。
あさぢ:丈の低いちがや
かりがね:雁の鳴く声、また雁
- 作者
-
阿倍虫麻呂
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
秋の野の尾花が末を押しなべて 来しくもしるく逢へる君かも
- 次の歌
-
朝戸開けて物思ふ時に白露の 置ける秋萩見えつつもとな