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風をだに恋ふるは羨し風をだに
来むとし待たば何か嘆かむ

歌の意味
せめて風にでも恋心を寄せて待てるのはうらやましい。風だけでも来るだろうと待つことができるなら、何を嘆くことがあろうか。
鑑賞
巻第八 秋相聞 1607

詞書「鏡王女の作る歌一首」
 前歌の額田王の歌に答え、簾を動かす風にさえ恋人の訪れを思って待てるのはうらやましい、私も風だけでも来ると思って待てるなら何も嘆くことはないと詠む歌である。訪れる人のない自分の寂しさを、額田王の境遇と比べることで、いっそう深く表している。巻第四の第四百八十九首にも同じ歌が収められている。
 作者の鏡王女は、天智天皇の寵愛を受け、のちに藤原鎌足の正室となったと伝えられる女性である。額田王の姉とする説もある。

 初句「風をだに」の「だに」は、せめて〜だけでもの意である。
 二句「恋ふるは羨し」は、恋しく思えるのはうらやましいの意で、ここで句切れとなる。
 三句「風をだに」は、初句と同じ言葉を繰り返し、風にさえ思いを寄せる切なさを強めている。
 四句「来むとし待たば」は、強意の「し」を含み、来るだろうと待つことができるならの意である。
 結句「何か嘆かむ」は、反語の「か」で、何を嘆くことがあろうか、いや嘆くことはないと打ち消し、待つ人さえない身の寂しさを逆に浮かび上がらせている。前歌の「秋の風吹く」を受けて「風」を二度詠み込み、二首で一組の贈答となっている。

なげく:ため息をつく、嘆き悲しむ
作者
鏡王女
出典
万葉集
前の歌
君待つと我が恋ひをれば我が宿の 簾動かし秋の風吹く
次の歌
秋萩の上に置きたる白露の 消かもしなまし恋ひつつあらずは