宇陀の野の秋萩しのぎ鳴く鹿も
妻に恋ふらく我れにはまさじ
- 歌の意味
-
宇陀の野の秋萩を押し分けて鳴く鹿も、妻を恋うる思いの深さは、私にはかなうまい。
- 鑑賞
-
巻第八 秋相聞 1609
詞書「丹比真人の歌一首[名闕けたり]」
宇陀の野の秋萩を押し分けながら妻を求めて鳴く鹿も、妻を恋う思いの深さでは自分にかなわないだろうと詠む歌である。妻恋いの象徴である鹿を引き合いに出し、自らの恋心の激しさを誇張して表している。
作者の丹比真人は、丹比氏で真人の姓をもつ人物である。題詞に「名闕けたり」とあり、名は伝わらない。
初句「宇陀の野の」は字余りで、奈良県宇陀のあたりの野である。
二句「秋萩しのぎ」の「しのぐ」は、押し分ける、押し伏せるの意である。
三句「鳴く鹿も」は、萩を押し分けて妻を求めて鳴く鹿も、の意である。本巻の第千五百九十九首の大伴家持の歌も、萩を胸で押し分けて通る鹿を詠んでいる。
四句「妻に恋ふらく」は、妻を恋い慕うことはの意である。
結句「我れにはまさじ」は、打消推量の「じ」で、私には勝らないだろうと言い切り、自らの恋心が鹿にまさることを強調している。
しのぐ:押し分ける、押し伏せる
うだ:奈良県宇陀のあたり
- 作者
-
丹比真人
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
秋萩の上に置きたる白露の 消かもしなまし恋ひつつあらずは
- 次の歌
-
あしひきの山下響め鳴く鹿の 言ともしかも我が心夫