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秋風の寒きこのころ下に着む
妹が形見とかつも偲はむ

歌の意味
秋風が寒いこのごろ、この衣を下に着よう。あなたの形見として、着ながら一方ではあなたをしのぼう。
鑑賞
巻第八 秋相聞 1626

詞書「また身に着る衣を脱ぎて家持に贈るに報ふる歌一首」
 坂上大嬢が自分の身に着ていた衣を脱いで贈ってきたのに答え、秋風の寒いこのごろ、その衣を下に着て、あなたの形見としてしのぼうと詠む歌である。肌に近く着ていた衣を贈るのは深い情愛の表れであり、家持もそれを肌身に着けることで応えている。左注により、天平十一年(739)秋九月の贈答である。
 作者の大伴家持は、大伴旅人の子で、奈良時代の官人である。中納言に至り、万葉集の編纂に深く関わったとされ、集中最も多くの歌を残す。

 初句「秋風の」は、冷たく吹く秋風である。
 二句「寒きこのころ」は、寒いこのごろの意で、衣を着る理由を示す。
 三句「下に着む」は、下着として肌に近く着ようの意で、ここで句切れとなる。
 四句「妹が形見と」は、あなたの形見としての意である。
 結句「かつも偲はむ」の「かつ」は、一方ではの意で、衣を着て寒さをしのぎながら、一方ではあなたをしのぼうと、二つの「しのぐ」「しのふ」の心を重ねている。

かたみ:思い出のよすがとなる品
作者
大伴家持
出典
万葉集
前の歌
我妹子が業と作れる秋の田の 早稲穂のかづら見れど飽かぬかも
次の歌
我が宿の時じき藤のめづらしく 今も見てしか妹が笑まひを