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佐保川の水を堰き上げて植ゑし田を
刈れる初飯はひとりなるべし

歌の意味
佐保川の水をせき止めて引き入れ、植えた田を刈り取って炊いた初めての飯は、ひとりで食べることになるだろう。
鑑賞
巻第八 秋相聞 1635

詞書「尼の頭句を作り、并せて大伴宿禰家持の尼に誂へらえて末句等を続ぎて和ふる歌一首」
 尼が上の句を作り、尼に頼まれた大伴家持が下の句を続けて一首とした歌である。尼が佐保川の水を引いて苦労して植えた田と詠んだのに対し、家持はその田を刈った初めての飯はひとりで食べることになるだろうと続けている。一首を二人で詠み継いだもので、のちの連歌の先駆けとして知られる。
 上の句の作者は題詞に「尼」とあるのみで、名は伝わらない。下の句の作者の大伴家持は、大伴旅人の子で、奈良時代の官人である。中納言に至り、万葉集の編纂に深く関わったとされ、集中最も多くの歌を残す。
 なお原文には上の句の後に「尼作る」、下の句の後に「家持続ぐ」とする注記があり、歌の本文ではないため除いた。

 初句「佐保川の」は、大伴氏の邸宅があった奈良の佐保を流れる川である。
 二句「水を堰き上げて」は字余りで、水をせき止めて引き入れての意で、田を育てる苦労を示す。
 三句「植ゑし田を」は、植えた田をの意である。前歌の第千六百三十四首の三句と同じ言葉で、尼が或る者の歌を受けて上の句を詠んだことがうかがえる。
 四句「刈れる初飯は」は、ここから家持の詠んだ下の句で、刈り取った稲で炊いた最初の飯はの意である。
 結句「ひとりなるべし」は、推量の「べし」で、ひとりで食べることになるだろうと推し量る。苦労して育てた田の実りを独り占めするのだろうと、機知をもって尼の上の句を受けている。

はついひ:新米で炊いた最初の飯
作者
尼、大伴家持
出典
万葉集
前の歌
衣手に水渋付くまで植ゑし田を 引板我が延へまもれる苦し
次の歌
大口の真神の原に降る雪は いたくな降りそ家もあらなくに