紀の国にやまず通はむ妻の杜
妻寄しこせね妻といひながら
- 歌の意味
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紀の国に絶えず通って来よう。妻の杜よ、私に妻を寄せてくれ。妻という名を持っているのだから。
- 鑑賞
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巻第九 雑歌 1679
詞書は前の歌に続き「大宝元年辛丑冬十月、太上天皇、大行天皇、紀伊国に幸す時の歌十三首」
妻の杜という名の森に向かい、妻という名を持つのだから私に妻を授けてくれと戯れて願う歌である。一首に「妻」を三度くり返し、地名に興じる機知に富んだ歌となっている。
大宝元年(701)の紀伊行幸の歌十三首の十三首目で、一連の結びの歌である。妻の杜は和歌山県橋本市妻に鎮座する社の森とされる。本文には、下の句を「妻賜はにも妻といひながら」とする異伝が注記されている。左注には、右一首は或いは坂上忌寸人長の作という、とある。
作者の坂上人長は坂上忌寸の一族と考えられるが、詳しい経歴は伝わらない。
初句「紀の国に」は、通う先の国を示す。
二句「やまず通はむ」は、絶えず通って来よう、の意で、「む」は意志の助動詞である。ここで句切れとなる。
三句「妻の杜」は地名で、呼びかけの対象となる。
四句「妻寄しこせね」は、妻を寄せてくれ、の意で、「寄す」は寄せ与えること、「こせね」は相手にそうしてほしいと望む表現である。異伝では「妻賜はにも」となっている。
結句「妻といひながら」は、妻という名を持っているのだから、の意で、名にちなんだ戯れの結びである。三句、四句、結句に「妻」を重ねる反復が一首の眼目となっている。
もり:神の宿る森、社の森
よす:寄せる、引き寄せて与える
- 作者
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坂上人長(或る説による)
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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紀の国の昔弓雄の鳴り矢もち 鹿取り靡けし坂の上にぞある
- 次の歌
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あさもよし紀へ行く君が真土山 越ゆらむ今日ぞ雨な降りそね