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衣手の名木の川辺を春雨に
我れ立ち濡ると家思ふらむか

歌の意味
名木の川辺で、私が春雨に立ち濡れていると、家の者は思っているだろうか。
鑑賞
巻第九 雑歌 1696

詞書「名木川にして作る歌三首」
 名木川の川辺で春雨に濡れて立つ自分のことを、家の人は思いやってくれているだろうかと詠む歌である。旅の身の心細さが、家人の思いを求める形で表れている。
 名木川で作った歌三首の一首目で、三首は春雨を家人と結びつけて詠む一連をなしている。本巻の第千六百八十八首第千六百八十九首も名木川で作った歌とされる。
 作者の柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人である。本歌は柿本人麻呂歌集から採られたもので、この歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が集めた他の人の作とが含まれると考えられている。

 初句「衣手の」は、名木にかかる枕詞とされるが、かかり方には諸説がある。
 二句「名木の川辺を」は、雨に濡れて立つ場所を示す。
 三句「春雨に」は、旅人を濡らす春の雨をいい、以下三首に共通する題材となる。
 四句「我れ立ち濡ると」は、私が立ったまま濡れていると、の意である。
 結句「家思ふらむか」は、家の者は思っているだろうか、の意で、「らむ」は現在推量、「か」は疑問を表す。「家」はここでは家にいる人を指す。

たちぬる:立ったまま濡れる
いへ:ここでは家にいる家族、家人
作者
柿本人麻呂
出典
万葉集
前の歌
妹が門入り泉川の常滑に み雪残れりいまだ冬かも
次の歌
家人の使ひにあらし春雨の 避くれど我れを濡らさく思へば