ぬばたまの夜霧は立ちぬ衣手の
高屋の上にたなびくまでに
- 歌の意味
-
夜霧が立ちこめてきた。高屋の上にたなびくほどに。
- 鑑賞
-
巻第九 雑歌 1706
詞書「舎人皇子の御歌一首」
夜霧が立ちこめ、高屋の上にまでたなびくほどになったと詠む歌である。夜の闇に広がる霧の情景を、簡潔に大きくとらえている。
詞書に舎人皇子の御歌とあり、前の二首で献歌を受けた皇子自身の歌が続けて置かれている。高屋の所在は明らかでなく、奈良県桜井市付近の地名とする説がある。本歌は柿本人麻呂歌集に収められていたものである。
作者の舎人皇子は天武天皇の皇子で、日本書紀の編纂を主宰した人物である。
初句「ぬばたまの」は、夜にかかる枕詞である。ぬばたまは檜扇の黒い実をいう。
二句「夜霧は立ちぬ」は、夜霧が立ちこめた、の意で、ここで句切れとなる。本巻の第千七百四首の「多武の山霧」に続いて、霧の歌が並べられている。
三句「衣手の」は、高屋にかかる枕詞とされるが、かかり方には諸説がある。
四句「高屋の上に」は、霧のたなびく地を示す。
結句「たなびくまでに」は、たなびくほどに、の意で、霧の広がりを最後に示す倒置となっている。
ぬばたま:檜扇の黒い実、黒いことから夜や黒にかかる
よぎり:夜に立つ霧
- 作者
-
舎人皇子
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
冬こもり春へを恋ひて植ゑし木の 実になる時を片待つ我れぞ
- 次の歌
-
山背の久世の鷺坂神代より 春は張りつつ秋は散りけり