我妹子が赤裳ひづちて植ゑし田を
刈りて収めむ倉無の浜
- 歌の意味
-
愛しい妻が赤い裳を泥に濡らして植えた田の稲を、刈り取って倉に収めよう。その倉が無いという名の倉無の浜よ。
- 鑑賞
-
巻第九 雑歌 1710
詞書なし
妻が赤い裳を泥に濡らして植えた田の稲を刈って収めようと言いながら、それを収める倉が無いという名の倉無の浜に興じた歌である。上の句から四句までが地名「倉無」を導く序となっており、地名の面白さを楽しんでいる。
題詞はなく、左注に次歌とあわせて右二首は或いは柿本朝臣人麻呂の作という、とある。倉無の浜は豊前国の浜で、現在の大分県中津市付近とされる。
作者の柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人である。左注は人麻呂の作とする一説を伝えるのみで、作者は確かではない。
初句「我妹子が」は、愛しい妻が、の意である。
二句「赤裳ひづちて」は、赤い裳を泥水に濡らして、の意で、田植えをする女性の姿を鮮やかに描く。
三句「植ゑし田を」は、植えた田を、の意で、「し」は過去の助動詞である。
四句「刈りて収めむ」は、刈り取って倉に収めよう、の意で、初句からここまでが「倉」を導く序詞となっている。
結句「倉無の浜」は、稲を収める倉が無いという名の地名で、体言止めとなっている。序で倉に収めようと言いながら、倉が無いと落とす機知が眼目である。
わぎもこ:男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語
ひづつ:泥水などにひたって濡れる
- 作者
-
柿本人麻呂(或る説による)
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
御食向ふ南淵山の巌には 降りしはだれか消え残りたる
- 次の歌
-
百伝ふ八十の島廻を漕ぎ来れど 粟の小島は見れど飽かぬかも