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金門にし人の来立てば夜中にも
身はたな知らず出でてぞ逢ひける

歌の意味
門口に男が来て立つと、夜中であっても、わが身のことなど顧みずに出て行って逢ったのだった。
鑑賞
巻第九 雑歌 1739

詞書は前の歌に続き「上総の周淮の珠名娘子を詠む一首 并せて短歌」の反歌
 門口に男が訪ねて来れば、夜中であっても身を顧みずに出て行って逢ったと、珠名娘子の振る舞いを語る歌である。長歌で描かれた、誰にでもなびく美しい娘の姿を、短く印象的にまとめている。
 本巻の第千七百三十八首の長歌に添えられた反歌である。長歌は、上総国周淮郡(現在の千葉県君津市、富津市付近)に住んだ美女珠名娘子の伝説を詠み、道行く人も隣の男も皆その美しさに惑ったことを語っている。
 作者の高橋虫麻呂は奈良時代前期の歌人で、藤原宇合が常陸守であった頃にその下僚として仕えたと考えられている。各地の伝説や東国の風土を題材とした長歌に優れる。本歌は高橋虫麻呂歌集から採られたもので、虫麻呂自身の作を中心とすると考えられている。

 初句「金門にし」は、門口に、の意である。「し」は強めの助詞である。
 二句「人の来立てば」は、男が来て立つと、の意で、已然形に「ば」が付いて、そうなるといつも、という条件を表す。
 三句「夜中にも」は、夜中であっても、の意である。
 四句「身はたな知らず」は、わが身のことを少しも顧みず、の意である。「たな」は、すっかり、の意の副詞である。
 結句「出でてぞ逢ひける」は、出て行って逢ったのだった、の意である。係助詞「ぞ」を受けて、過去の「けり」の連体形「ける」で結ぶ係り結びとなり、伝え聞いた話として語る。

かなと:門、門口
作者
高橋虫麻呂(虫麻呂歌集所出)
出典
万葉集
前の歌
大滝を過ぎて夏身に近づきて 清き川瀬を見るがさやけさ
次の歌
常世辺に住むべきものを剣大刀 汝が心からおそやこの君