常世辺に住むべきものを剣大刀
汝が心からおそやこの君
- 歌の意味
-
常世の国にずっと住んでいられたものを、自分の心がけのせいで、なんと愚かなことよ、この人は。
- 鑑賞
-
巻第九 雑歌 1741
詞書は前の歌に続き「水江の浦島の子を詠む一首 并せて短歌」の反歌
常世の国に住み続けられたはずなのに、自分の心から箱を開けてすべてを失った浦島の子を、愚かな人だと嘆く歌である。長歌の物語を受けて、語り手の感想を率直に述べている。
本巻の第千七百四十首の長歌に添えられた反歌である。長歌は、住吉の岸で釣り舟を見て水江の浦島の子の昔話を思い起こし、海神の娘と常世で暮らした浦島が、禁じられた箱を開けて老い死んだ物語を詠んでいる。浦島伝説を伝える古い資料の一つとして知られる。
作者の高橋虫麻呂は奈良時代前期の歌人で、藤原宇合が常陸守であった頃にその下僚として仕えたと考えられている。各地の伝説や東国の風土を題材とした長歌に優れる。本歌は高橋虫麻呂歌集から採られたもので、虫麻呂自身の作を中心とすると考えられている。
初句「常世辺に」は、常世の国に、の意である。
二句「住むべきものを」は、住んでいられたはずのものを、の意で、逆接の「ものを」が後悔の気持ちを表す。
三句「剣大刀」は、刀の刃を「な」ということから「汝」にかかる枕詞である。
四句「汝が心から」は、おまえ自身の心のせいで、の意である。「から」は原因を表す。
結句「おそやこの君」は、愚かなことよ、この人は、の意である。「おそ」は愚かなこと、「や」は詠嘆を表し、倒置によって嘆きを強めている。
とこよ:海のかなたにあるとされた不老不死の国
おそ:愚かなこと、鈍いこと
- 作者
-
高橋虫麻呂(虫麻呂歌集所出)
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
金門にし人の来立てば夜中にも 身はたな知らず出でてぞ逢ひける
- 次の歌
-
大橋の頭に家あらばま悲しく 独り行く子に宿貸さましを