男神に雲立ち上りしぐれ降り
濡れ通るとも我れ帰らめや
- 歌の意味
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男神の峰に雲が立ち上り、しぐれが降って、ずぶ濡れになったとしても、私は帰ったりするものか。
- 鑑賞
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巻第九 雑歌 1760
詞書は前の歌に続き「筑波嶺に登りて嬥歌会をする日に作る歌一首 并せて短歌」の反歌
筑波山の男神の峰に雲が立ってしぐれが降り、ずぶ濡れになっても、決して帰るものかと詠む歌である。年に一度の嬥歌の集いに加わる高揚した気持ちが、力強く表されている。
本巻の第千七百五十九首の長歌に添えられた反歌である。長歌は、筑波山の裳羽服津に男女が集まって歌を掛け合う嬥歌の日には、人妻に我も交わり、我が妻に人も言い寄れ、これはこの山を治める神が昔から禁じていない行事であると詠んでいる。嬥歌は東国の言葉でかがいといい、男女が歌を掛け合って求婚する行事であった。
作者の高橋虫麻呂は奈良時代前期の歌人で、藤原宇合が常陸守であった頃にその下僚として仕えたと考えられている。各地の伝説や東国の風土を題材とした長歌に優れる。本歌は高橋虫麻呂歌集から採られたもので、虫麻呂自身の作を中心とすると考えられている。
初句「男神に」は、筑波山の二つの峰のうち、男神の峰に、の意である。筑波山は西の男体山と東の女体山からなり、長歌の「この山をうしはく神」を受ける。
二句「雲立ち上り」は、雲が立ち上って、の意である。
三句「しぐれ降り」は、晩秋から初冬に降るにわか雨が降って、の意である。
四句「濡れ通るとも」は、ずぶ濡れになったとしても、の意である。
結句「我れ帰らめや」は、私が帰ろうか、いや帰りはしない、の意の反語である。「め」は推量の「む」の已然形で、「や」が反語を表す。
をかみ:男神、筑波山の男体山の神
しぐれ:晩秋から初冬に降るにわか雨
- 作者
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高橋虫麻呂(虫麻呂歌集所出)
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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筑波嶺の裾廻の田居に秋田刈る 妹がり遣らむ黄葉手折らな
- 次の歌
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明日の宵逢はざらめやもあしひきの 山彦響め呼びたて鳴くも