海つ道のなぎなむ時も渡らなむ
かく立つ波に船出すべしや
- 歌の意味
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海路が穏やかになる時に渡ってほしい。こんなに波が立っている時に、船出してよいものか。
- 鑑賞
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巻第九 相聞 1781
詞書は前の歌に続き「鹿島郡の苅野橋にして大伴卿に別るる歌一首 并せて短歌」の反歌
海が穏やかになってから渡ってほしい、こんなに波の立つ時に船出すべきではないと、旅立つ人の身を案じる歌である。別れを惜しむ心が、船出を引き止めたい気持ちとなって表れている。
本巻の第千七百八十首の長歌に添えられた反歌である。長歌は、鹿島の崎で赤く塗った小舟を用意し、夕潮の満ちるのを待って船出したなら、浜いっぱいに残された人々は転げ回って恋い、足ずりして泣くだろう、海上の津を目指して君が漕いで行ったならば、と詠んでいる。大伴卿が誰を指すかについては、大伴旅人とする説や大伴道足とする説などがあり、定説を見ない。
作者の高橋虫麻呂は奈良時代前期の歌人で、藤原宇合が常陸守であった頃にその下僚として仕えたと考えられている。各地の伝説や東国の風土を題材とした長歌に優れる。本歌は高橋虫麻呂歌集から採られたもので、虫麻呂自身の作を中心とすると考えられている。
初句「海つ道の」は、海の道、海路の、の意である。「つ」は「の」の意の古い助詞である。
二句「なぎなむ時も」は、穏やかになるであろう時に、の意である。
三句「渡らなむ」は、渡ってほしい、の意で、「なむ」は他に対する願望を表す。ここで句切れとなる。
四句「かく立つ波に」は、このように立っている波の中に、の意である。
結句「船出すべしや」は、船出してよいものか、いやすべきでない、の意の反語である。長歌で詠まれた船出の場面を受け、それを引き止めようとしている。
うみつぢ:海路、海の道
なぐ:風がやみ海が穏やかになる
- 作者
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高橋虫麻呂(虫麻呂歌集所出)
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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命をしま幸くもがも名欲山 岩踏み平しまたまたも来む
- 次の歌
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雪こそば春日消ゆらめ心さへ 消え失せたれや言も通はぬ