ひさかたの天の香具山この夕
霞たなびく春立つらしも
- 歌の意味
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天の香具山に、この夕方、霞がたなびいている。どうやら春が来たらしい。
- 鑑賞
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巻第十 春雑歌 1812
詞書「春雑歌」
夕暮れの天の香具山にたなびく霞を見て、春の到来を知った喜びを詠んだ歌である。目に見える霞という確かな景物から、立春という目に見えない季節の移り変わりを推し量る構図が、端正で大らかな調べの中に収められている。巻第十の巻頭、春雑歌の冒頭に置かれ、万葉集の季節歌の巻を開く一首として名高い。
作者の柿本人麻呂は飛鳥時代、持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人である。この歌は左注によって「柿本人麻呂歌集」に出ると記される歌で、人麻呂自身の作か、人麻呂が書き留めた他人の歌かは定かでない。
巻第一の第二十八首、持統天皇の「春過ぎて夏来るらし白栲の衣干したり天の香具山」も、香具山の景から季節の移り変わりを推し量る歌であり、香具山が季節を告げる山として詠まれてきたことがうかがえる。新古今和歌集の春歌上に収められた後鳥羽院の「ほのぼのと春こそ空に来にけらし天の香具山霞たなびく」は、この歌を踏まえたものといわれる。
初句「ひさかたの」は「天」にかかる枕詞である。天空の果てしない広がりを感じさせる語で、次の「天の香具山」を荘重に導き出している。
二句「天の香具山」は大和三山の一つで、天から降ったという伝承をもつ聖なる山である。枕詞と組み合わさり、神聖さと大きさを備えた山として据えられる。
三句「この夕」は時を夕方に限定する。朝ではなく夕暮れの霞をとらえた点に、一日の終わりに季節の変化を確かめる静かな眼差しがある。
四句「霞たなびく」は霞が横に長く引いている様子である。以下、本巻の第千八百十四首から第千八百十八首まで「霞たなびく」の句が繰り返され、人麻呂歌集の春雑歌の一群を貫く語となっている。
結句「春立つらしも」の「らし」は根拠のある推定の助動詞、「も」は詠嘆の終助詞である。霞という根拠から立春を推し量り、その発見を感動とともに言い収めている。
ひさかた:空、天を表す語。「ひさかたの」で「天」「光」などにかかる枕詞となる
たなびく:霞や雲が横に長く引いてただよう
- 作者
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柿本人麻呂
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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墓の上の木の枝靡けり聞きしごと 茅渟壮士にし寄りにけらしも
- 次の歌
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巻向の桧原に立てる春霞 おほにし思はばなづみ来めやも