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我が背子を莫越の山の呼子鳥
君呼び返せ夜の更けぬとに

歌の意味
我が夫を越えさせるなという名の莫越の山の呼子鳥よ、あの方を呼び返しておくれ。夜が更けてしまわないうちに。
鑑賞
巻第十 春雑歌 1822

詞書は前の歌に続き「鳥を詠む」
 帰って行く夫を引き留めたい女性の心を、莫越の山の呼子鳥に託した歌である。「莫越」という地名に「越えさせるな」の意を掛け、さらに人を呼ぶ名をもつ呼子鳥に夫を呼び返してほしいと願っており、地名と鳥の名の両方を巧みに生かしている。鳥を詠む一連の中にありながら、恋の思いが色濃く表れた一首である。

 初句「我が背子を」は我が夫をの意である。「背子」は女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語で、作者が女性の立場に立っていることを示す。
 二句「莫越の山の」は地名の莫越に、「な越し」すなわち越えさせるなの意を掛けている。初句からの続きで、夫を山を越えて行かせまいとする願いが込められる。
 三句「呼子鳥」は人を呼ぶように鳴く鳥で、カッコウなどとされる。名前に「呼ぶ」を含むことから、次の句の願いへとつながる。
 四句「君呼び返せ」は命令形で、呼子鳥に夫を呼び返すよう呼びかけている。ここで四句切れとなり、倒置によって結句が理由を補う。
 結句「夜の更けぬとに」は夜が更けてしまわないうちにの意である。「とに」はうちにの意を表し、夜更けまでに夫を取り戻したい切実さが表れている。

せこ:女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語
よぶこどり:人を呼ぶように鳴く鳥。カッコウの類とされる
なこし:地名の莫越に、越えさせるなの意を掛ける
出典
万葉集
前の歌
春霞流るるなへに青柳の 枝くひ持ちて鴬鳴くも
次の歌
朝ゐでに来鳴く貌鳥汝れだにも 君に恋ふれや時終へず鳴く