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うち靡く春さり来ればしかすがに
天雲霧らひ雪は降りつつ

歌の意味
春がやって来たというのに、それでもなお空の雲は一面に曇って、雪が降り続いている。
鑑賞
巻第十 春雑歌 1832

詞書「雪を詠む」
 春が来たにもかかわらず、空が曇って雪が降り続く様子を詠んだ歌で、題詞「雪を詠む」の一連の最初に置かれる。春の到来を待ちわびる心と、なお冬の名残をとどめる空とのずれを、「しかすがに」の一語でとらえている。鳥を詠む一連が春の喜びを歌ったのに対し、雪の一連は春の中の冬の名残を歌い始めており、配列の上でも季節の揺り戻しが表されている。

 初句「うち靡く」は「春」にかかる枕詞である。本巻の第千八百十九首、第千八百三十首と同じ初句で、春の到来を告げる型を踏まえている。
 二句「春さり来れば」は春がやって来るとの意である。ここまでは鳥の一連と同じ言い回しで、下の句で意外な景へと転じる。
 三句「しかすがに」はそうはいうもののの意で、逆接を表す。春の到来と冬の名残をつなぐ要となる語で、本巻の第千八百三十四首、第千八百三十六首、第千八百四十八首にも用いられる。
 四句「天雲霧らひ」は空の雲が一面に曇っての意である。「霧らふ」は霧や雲が立ちこめて曇る意で、「ふ」は継続を表す。
 結句「雪は降りつつ」の「つつ」は継続を表し、雪が降り続けている状態を余情とともに言いさしている。

きらふ:霧や雲が立ちこめて一面に曇る
出典
万葉集
前の歌
朝霧にしののに濡れて呼子鳥 三船の山ゆ鳴き渡る見ゆ
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梅の花降り覆ふ雪を包み持ち 君に見せむと取れば消につつ