今さらに雪降らめやもかぎろひの
燃ゆる春へとなりにしものを
- 歌の意味
-
今さら雪が降るだろうか、いや降りはしないだろう。陽炎の燃え立つ春になってしまったのだから。
- 鑑賞
-
巻第十 春雑歌 1835
詞書は前の歌に続き「雪を詠む」
陽炎が燃え立つ春になった今、もう雪が降るはずはないと言い切る歌である。雪の一連の中にあって、雪を詠みながらその雪を否定する歌で、春を待ちわびた心がかえって強く表れている。本巻の第千八百三十二首や第千八百三十四首が春になっても降り続く雪を詠んだのに対し、この歌は春になったからには雪は降らないはずだと反対の立場から詠んでおり、対照的な関係にある。
初句「今さらに」は今となってはの意である。春の到来を当然の前提として、雪の降ることを意外なものとする。
二句「雪降らめやも」の「めやも」は反語で、降るだろうか、いや降りはしないの意となる。ここで二句切れとなる。
三句「かぎろひの」は陽炎のの意で、「燃ゆ」を導く。春の日差しに立ちのぼる陽炎の景を示す。
四句「燃ゆる春へと」の「春へ」は春のころの意である。陽炎の燃え立つさまが、暖かな春の到来を鮮やかに印象づける。
結句「なりにしものを」の「ものを」は逆接、詠嘆を含む接続助詞である。春になったのだからと理由を述べつつ、倒置によって二句の反語を支えている。
かぎろひ:陽炎。春の日差しに地面から立ちのぼる光のゆらめき
はるへ:春のころ
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
梅の花咲き散り過ぎぬしかすがに 白雪庭に降りしきりつつ
- 次の歌
-
風交り雪は降りつつしかすがに 霞たなびき春さりにけり