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春雨に争ひかねて我が宿の
桜の花は咲きそめにけり

歌の意味
春雨に抗いきれずに、我が家の桜の花は咲き始めたことだ。
鑑賞
巻第十 春雑歌 1869

詞書は前の歌に続き「花を詠む」
 春雨に促されるようにして、家の桜が咲き始めたことを詠んだ歌である。花が雨に「争ひかねて」咲くという擬人的な表現に、花の開くことを待ちわびていた作者の喜びが表れている。本巻の第千八百六十四首が春雨に散る桜を案じたのに対し、この歌は春雨によって咲く桜を詠み、雨が花を散らしもし咲かせもすることが対比されている。

 初句「春雨に」は春雨にの意で、花を咲かせる雨として示される。
 二句「争ひかねて」の「かぬ」はしきれない意で、春雨に抗いきれずにの意となる。花を擬人化した表現である。
 三句「我が宿の」は私の家のの意である。身近な庭の桜であることを示す。
 四句「桜の花は」は主題を示す。第千八百六十四首の山の桜に対し、ここでは家の桜を詠む。
 結句「咲きそめにけり」の「そむ」は始める意、「けり」は気づきの詠嘆である。咲き始めた花に気づいた喜びを示して結ぶ。

あらそふ:抗う。張り合う
やど:家。住まい
出典
万葉集
前の歌
かはづ鳴く吉野の川の滝の上の 馬酔木の花ぞはしに置くなゆめ
次の歌
春雨はいたくな降りそ桜花 いまだ見なくに散らまく惜しも