思ふ子が衣摺らむににほひこそ
島の榛原秋立たずとも
- 歌の意味
-
いとしい娘が衣を摺り染めるのに、美しく色づいておくれ、島の榛原よ。まだ秋にはならなくとも。
- 鑑賞
-
巻第十 夏雑歌 1965
詞書「榛を詠む」
愛しい娘が衣を摺り染めるのに使えるよう、秋を待たずに色づいてほしいと榛原に呼びかける歌で、題詞は「榛を詠む」である。榛は衣を染める染料とされ、恋人のために早く色づいてほしいという願いに、相手を思う心がこもっている。夏雑歌の中で、秋の色づきを先取りして願う一首である。
初句「思ふ子が」は思いを寄せる娘がの意である。
二句「衣摺らむに」は衣を摺り染めるのにの意で、「む」は婉曲を表す。
三句「にほひこそ」の「にほふ」は色美しく照り映える意、「こそ」は願望の終助詞である。ここで三句切れとなる。
四句「島の榛原」は島の地の榛の林の意で、呼びかけの対象である。
結句「秋立たずとも」の「とも」は逆接の仮定である。秋にならなくともと願いの強さを示して結ぶ。
する:草木の汁などを布にすりつけて染める
はり:榛。ハンノキの類とされ、衣を染める染料とした
にほふ:色美しく照り映える
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
黙もあらむ時も鳴かなむひぐらしの 物思ふ時に鳴きつつもとな
- 次の歌
-
風に散る花橘を袖に受けて 君がみ跡と偲ひつるかも