見わたせば向ひの野辺のなでしこの
散らまく惜しも雨な降りそね
- 歌の意味
-
見渡すと向かいの野辺のなでしこが散るのは惜しいことだ。雨よ、降らないでおくれ。
- 鑑賞
-
巻第十 夏雑歌 1970
詞書は前の歌に続き「花を詠む」
向かいの野辺に咲くなでしこが雨に散らされるのを惜しみ、雨に降らないでほしいと願う歌である。本巻の第千八百七十首の「春雨はいたくな降りそ桜花」と同じく、花を散らす雨に降るなと呼びかける趣向で、春の桜から夏のなでしこへと花を替えている。
初句「見わたせば」は見渡すとの意で、本巻の第千八百七十二首などと同じ初句である。
二句「向ひの野辺の」は向かいの野辺のの意である。
三句「なでしこの」は夏から秋にかけて咲く花で、可憐な姿が愛された。
四句「散らまく惜しも」の「まく」は推量の「む」のク語法、「も」は詠嘆で、ここで四句切れとなる。
結句「雨な降りそね」は「な…そ」で禁止を表し、「ね」は願望を添える。雨に降らないでくれと願って結ぶ。字余りの句である。
なでしこ:ナデシコ科の草花。夏から秋に淡紅色の花を咲かせる
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
我が宿の花橘は散りにけり 悔しき時に逢へる君かも
- 次の歌
-
雨間明けて国見もせむを故郷の 花橘は散りにけむかも