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風吹きて川波立ちぬ引き船に
渡りも来ませ夜の更けぬ間に

歌の意味
風が吹いて川波が立ってきた。引き船で渡っておいでください。夜の更けないうちに。
鑑賞
巻第十 秋雑歌 2054

詞書は前の歌に続き「七夕」
 風が吹いて川波が立ってきたので、綱で引く引き船で渡って来てほしいと願う織女の歌である。波を恐れながらも逢瀬を諦めず、方法を工夫してでも来てほしいという切実な思いが表れている。本巻の第二千四十六首が波の中で舟を留めるよう案じたのに対し、この歌は引き船でも渡って来てほしいと願っており、同じ状況に対する正反対の願いが並んでいる。

 初句「風吹きて」は風が吹いての意である。
 二句「川波立ちぬ」の「ぬ」は完了で、ここで二句切れとなる。第二千四十六首の二句と同じ句である。
 三句「引き船に」は綱で岸から引く舟での意である。波の中でも安全に渡る方法を示す。
 四句「渡りも来ませ」の「ませ」は尊敬の命令形で、渡っておいでくださいの意である。
 結句「夜の更けぬ間に」は本巻の第二千四十二首と同じ結句で、急ぐ理由を示して結ぶ。

ひきふね:綱をつけて岸から引く舟
出典
万葉集
前の歌
天の川八十瀬霧らへり彦星の 時待つ舟は今し漕ぐらし
次の歌
天の川遠き渡りはなけれども 君が舟出は年にこそ待て