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ますらをの現し心も我れはなし
夜昼といはず恋ひしわたれば

歌の意味
立派な男子としての確かな心も、私にはない。夜といわず昼といわず、恋い続けているので。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2376

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 夜も昼も恋い続けているために、ますらをとしての確かな心さえ失ってしまった、と嘆く歌である。勇ましくあるべき男子が恋のために正気を失うという落差によって、恋の力の大きさを表している。
 詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」である。「ますらを」の語は本巻の第二千三百八十六首にも見え、そこでも巌さえ突き通すほどの男子が恋には悔いたと詠まれている。ますらをと恋という取り合わせが、この一群の中で繰り返されている。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「ますらをの」の「ますらを」は勇ましく立派な男子をいう。作者が自らを指して、男子としての誇りを持つ身であることを示している。
 二句「現し心も」の「現し心」は、正気の心、しっかりした平常の心をいう。係助詞「も」は、それさえも、の意を含んでいる。
 三句「我れはなし」は、私にはない、の意である。ここで句切れとなる三句切れの歌で、下の句はその理由を後から述べる倒置の形になっている。
 四句「夜昼といはず」は、夜昼の区別なく、の意である。六音の字余りの句で、絶え間なく恋い続けるさまを表している。
 結句「恋ひしわたれば」は、恋い続けているので、の意である。「わたれ」は動詞「わたる」の已然形で、接続助詞「ば」が付いて原因、理由を表し、三句の「なし」の理由を示している。

ますらを:勇ましく立派な男子
うつしごころ:正気の心、しっかりした平常の心
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
我れゆ後生まれむ人は我がごとく 恋する道にあひこすなゆめ
次の歌
何せむに命継ぎけむ我妹子に 恋ひぬ前にも死なましものを