何せむに命継ぎけむ我妹子に
恋ひぬ前にも死なましものを
- 歌の意味
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何のために命をつないできたのだろう。いとしい妻に恋をする前に、死んでしまえばよかったのに。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2377
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
何のために今まで生き長らえてきたのか、愛しい人に恋をする前に死んでしまえばよかった、と嘆く歌である。恋を知らなければこれほど苦しまなかったという思いを、死を願う激しい言葉で表している。
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」である。「何せむに」の句は次歌の三句にも用いられており、本歌では生き長らえたことへの問いとして、次歌では恋い続けることへの問いとして置かれている。反実仮想による後悔の形は本巻の第二千三百七十二首とも通じている。
作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。
初句「何せむに」は、何のために、の意である。疑問を表し、二句の「けむ」と呼応している。
二句「命継ぎけむ」は、命をつないできたのだろうか、の意である。過去推量の助動詞「けむ」が初句の疑問を受けて連体形で結んでおり、ここで句切れとなる二句切れの歌である。
三句「我妹子に」の「我妹子」は、男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語である。格助詞「に」は恋の対象を示している。
四句「恋ひぬ前にも」は、恋をしない前にでも、の意である。「恋ひぬ」は動詞「恋ふ」に打消の助動詞「ず」の連体形が付いた形で、「さき」は以前の意である。
結句「死なましものを」は、死んでしまえばよかったのに、の意である。反実仮想の助動詞「まし」に「ものを」が付いて、かなわぬ仮想への悔恨を込めて言い終えている。
わぎもこ:男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語
つぐ:絶えないようにつなぐ、ここでは命を長らえる意
さき:以前、前
- 作者
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柿本人麻呂歌集
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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ますらをの現し心も我れはなし 夜昼といはず恋ひしわたれば
- 次の歌
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よしゑやし来まさぬ君を何せむに いとはず我れは恋ひつつ居らむ