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見わたせば近き渡りをた廻り
今か来ますと恋ひつつぞ居る

歌の意味
見渡すとすぐ近い渡り場であるのに、そのあたりを行きつ戻りつして、今おいでになるかと恋い慕いながらいることだ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2379

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 見渡せばすぐそこに見える渡り場なのに、あの人はなかなか来ず、その辺りを行きつ戻りつしながら、今来るか今来るかと待ち焦がれている、という歌である。近くにありながら逢えないもどかしさと、落ち着かずに待つ姿とが具体的に描かれている。
 詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」である。前歌が来ない人を「恋ひつつ居らむ」と反語で突き放そうとしたのに対し、本歌は同じ「来ます」「恋ひつつ」「居り」の語を用いながら、なおも待ち続ける姿を詠んでおり、前歌と対をなすように配列されている。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「見わたせば」は、見渡すと、の意である。接続助詞「ば」は、…すると、の意で、目に入る景色へと導いている。
 二句「近き渡りを」の「渡り」は川などを渡る所、渡し場のことである。格助詞「を」はここでは、…であるのに、という逆接の気持ちを含んでいる。
 三句「た廻り」は、同じ所を行きつ戻りつする、めぐり歩くの意の動詞「たもとほる」の連用形である。待ちきれずに落ち着かないさまを表している。
 四句「今か来ますと」は、今おいでになるかと、の意である。係助詞「か」は疑問を表し、「来ます」は「来」の尊敬語である。
 結句「恋ひつつぞ居る」は、恋い慕いながらいることだ、の意である。係助詞「ぞ」を受けて「居る」が連体形で結ぶ係り結びであり、「つつ」が待ち続ける時間の長さを表している。

わたり:川などを渡る所、渡し場
たもとほる:同じ所を行きつ戻りつする、めぐり歩く
きます:「来」の尊敬語、おいでになる
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
よしゑやし来まさぬ君を何せむに いとはず我れは恋ひつつ居らむ
次の歌
はしきやし誰が障ふれかも玉桙の 道見忘れて君が来まさぬ