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ぬばたまのこの夜な明けそ赤らひく
朝行く君を待たば苦しも

歌の意味
この夜よ、明けないでくれ。朝に帰って行くあなたを待つことになれば苦しいのだから。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2389

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 夜が明ければ恋人は帰って行き、自分はまた待つ身となる。それが苦しいので、この夜よ明けないでほしいと願った女の歌である。共寝の夜が終わることを惜しむ、後朝の別れの切なさを率直に詠んでいる。
 「ぬばたまの」と「赤らひく」という二つの枕詞を用い、黒い夜と赤らむ朝とを色の上でも対照させている点に工夫が見られる。「赤らひく」は本巻の第二千三百九十九首にも「赤らひく肌」として見え、そちらは「肌」にかかっている。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「ぬばたまの」は「夜」にかかる枕詞である。ぬばたまは檜扇の黒い実とされ、その黒さから夜や黒髪を導く。
 二句「この夜な明けそ」は、この夜よ明けるな、の意である。「な…そ」は禁止を表す形で、明けてほしくないという切実な願いがこめられている。ここで二句切れとなる。
 三句「赤らひく」は「朝」にかかる枕詞である。赤みを帯びて輝く意で、初句の「ぬばたまの」の黒と色の上で対をなしている。
 四句「朝行く君を」は、朝になって帰って行くあなたを、の意である。夜に通って来た男が朝に去って行く、当時の通い婚の習わしを背景としている。
 結句「待たば苦しも」は、待つことになれば苦しい、の意である。「待たば」は未然形に「ば」が付いた仮定条件で、終助詞「も」が詠嘆をこめて結んでいる。

ぬばたま:檜扇の黒い実とされる。「ぬばたまの」の形で「夜」「黒」などにかかる枕詞となる
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
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