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しましくも見ぬば恋ほしき我妹子を
日に日に来れば言の繁けく

歌の意味
少しの間でも会わないと恋しい我妹子のもとへ、毎日通って来るので、人の噂がうるさいことだ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2397

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 わずかの間でも会わずにいると恋しくなる恋人のもとへ毎日通っているので、人の噂がうるさくてならないと嘆いた歌である。会わずにいられない思いと、それゆえに立つ世間の噂との板挟みが詠まれている。
 次歌も結句を「言の繁けく」とし、二首は同じ句で結ばれている。本歌が毎日通う男の側から噂を嘆くのに対し、次歌は頼みとする君のために噂が立つと女の側から嘆いており、男女の立場から同じ悩みを詠み分けた対をなしている。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「しましくも」は、しばらくの間も、少しの間でも、の意である。会わない時間がほんのわずかであっても、という気持ちを表している。
 二句「見ぬば恋ほしき」は、会わないと恋しい、の意である。「見ぬば」は「見ねば」の古い形とされ、打消の「ず」に「ば」が付いて条件を表す。
 三句「我妹子を」は、いとしい妻を、恋人を、の意である。親しみをこめた呼び方で、助詞「を」は四句の「来れば」へと続く。
 四句「日に日に来れば」は、毎日毎日通って来るので、の意である。「来」は相手のもとへ行くことを、相手の側から言ったものである。
 結句「言の繁けく」は、噂がうるさいことよ、の意である。「繁けく」は形容詞「繁し」のク語法で、詠嘆をこめて体言のように言いさして結んでいる。次歌の結句と同じ句である。

わぎもこ:男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語
こと:人のうわさ、評判
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
たまさかに我が見し人をいかならむ よしをもちてかまた一目見む
次の歌
たまきはる世までと定め頼みたる 君によりてし言の繁けく