思ひ寄り見ては寄りにしものにあれば
一日の間も忘れて思へや
- 歌の意味
-
心を寄せ、会ってからはすっかり寄り添ってしまったのだから、一日の間でも忘れていることがあろうか。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2404
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
相手に心を寄せ、会ってからはすっかり心が寄り添ってしまったのだから、一日たりとも忘れることなどないと詠んだ歌である。「寄る」の語を重ねて、心が相手に引き寄せられていくさまを表し、変わらぬ思いを誓っている。
結句を反語とし、一日の間も忘れることはないと強く打ち消している。本巻の第二千三百九十一首が昨日の夕べから今日の朝までのわずかな時の恋しさを詠んだのと同じく、本歌も一日という短い時を尺度として恋の思いの絶え間なさを示している。
作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。
初句「思ひ寄り」は、心を寄せて、の意である。まだ会う前から相手に思いを寄せていたことを表している。
二句「見ては寄りにし」は、会ってからはすっかり寄り添ってしまった、の意である。初句の「寄り」を重ね、会うことで思いがいっそう深まったことを示している。「にし」は完了の「ぬ」の連用形に過去の「き」の連体形が付いた形である。
三句「ものにあれば」は、ことであるから、の意である。已然形に「ば」が付いた確定条件で、上の句の内容を理由として下の句へつないでいる。字余りの句である。
四句「一日の間も」は、一日の間でも、の意である。係助詞「も」によって、ほんの一日でさえという短さを強めている。
結句「忘れて思へや」は、忘れて思うことがあろうか、いや忘れはしない、の意である。已然形に「や」が付いた反語で、変わらぬ思いを強く言い切って結んでいる。
よる:心が引き寄せられる、相手に寄り添う
ひとひ:一日
- 作者
-
柿本人麻呂歌集
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
玉くせの清き川原にみそぎして 斎ふ命は妹がためこそ
- 次の歌
-
垣ほなす人は言へども高麗錦 紐解き開けし君ならなくに